『駐車装置の耐用年数を認識されていますか?』
『今使用されている駐車装置が永遠に使用できる前提で議論されていませんか?』
マンション管理組合の理事会や総会、或いは説明会(意見交換会)に参加させて頂いた際に、よくする問いかけです。
駐車装置の耐用年数は、一般的に25年~30年に設定されています。
駐車装置に係る収支改善策(特にコスト削減策)を検討する場合、この耐用年数の認識は絶対的に必要な前提です。耐用年数の認識なく導き出された収支改善策は、効果が限定的、というよりも逆効果となる場合が少なくありません(むしろ多いです)。
犯してしまいがちな失敗(幾度となく見てきた失敗)をご紹介します。
1.平面化の検討
車離れ等のために空きが増えてしまった駐車装置を撤去し、平面化(平面駐車場化)を検討される管理組合さんも増えてきました。
検討過程では、割合の差こそあれ賛成意見をお持ちの方と反対意見をお持ちの方もおられます。
問題なのは、反対意見をお持ちの方のほとんどは、駐車装置に耐用年数があるという認識をお持ちでないことです。
耐用年数の認識がないと、『平面化するのか、平面化しないのか』という議論になりますが、
耐用年数を認識されると、『平面化するのか、空き車室数の分までリニューアルするのか』という議論であることに気付かれます。
一例をあげます。
総収容台数18台の内6台の空きを抱えており、一部平面化を検討されています。
この場合において、平面化に反対するということは、即ち全18台のリニューアルに賛成することを意味します(既存駐車装置の設置からの経過年数によりリニューアル時期は前後します)。総収容台数9台の駐車装置新しい9台の駐車装置にリニューアルする費用は、3台の平面駐車場にする費用の2,5倍から3倍程度になります。
耐用年数の認識がないまま平面化に反対し/不採用とした結果、3倍の費用をかけてリニューアルするのは、多くの場合不本意ではないでしょうか?
2.部品交換
駐車装置に限らず機械や装置というものは、当たり前のことですが、時とともに古くなります。古くなれば故障が増えてくることは、機械に詳しくない方にも何となくご理解頂けると思います。
「(この部品交換は、)安全性の観点から不可欠」という錦の御旗を掲げた提案をそのまま受け入れ、あと数年で耐用年数を経過する駐車装置に多額の資金をつぎ込んでしまう、これが多くの管理組合さんが“ハマってしまう”パターンです。
耐用年数を経過し、リニューアルの提案がなされたときに『去年実施した部品交換は無駄だったんじゃないか?!』と、言ったところで、投じた資金は戻りません。
これは単に『もったいなかった』という話にとどまらず、既存の駐車装置に資金を注ぎ込み切った状態で、リニューアル資金を工面することは、簡単なことではないと思います。
※リニューアル費用より高額な部品交換提案が平然となされるケースも残念ながらあります。
駐車装置メーカーさんもメンテナンス会社さんも「安全最優先」の立場で提案される部品交換であることは間違いないと思いますが、『その駐車装置をあと何年使用する為の部品交換なのか』は確認されることをお勧めします。
3.仕様変更
事例として多いのは「改造によるハイルーフ車対応」という仕様変更です。
3段(地上1段地下2段)式駐車装置の地下1階を撤去して、地下2階をハイルーフ車対応にすることで、高さ制限に抵触する為に流出している駐車場需要=使用料収入を取り戻し、駐車場の収支改善を図るパターンです。
施工費用と期待される増のバランスの問題で、『この仕様変更で何台の契約が増えるのか?』だけに関心が集中し、『仕様変更をした後その装置を何年使用できるのか?』はほとんど論じられていないように感じています。
外部の月極駐車場の利用を強いられている居住者を一日でも早く救済したい、という主旨であれば、特段耐用年数を検討する必要はないと思いますが、駐車場収支を改善したい、という主旨であれば、元を取る前に耐用年数を迎えることで逆効果になる可能性についても検討して頂きたいと思います。
※耐用年数は絶対的なものなのか
耐用年数は、通常、長期修繕計画上で想定された謂わば目安のようなものです。したがって、長期修繕計画上で想定された耐用年数を超えても支障なく使用されている駐車装置も少なからずありますし、部品交換等のメンテナンスを怠ったり、厳しい環境下にあったりすることにより耐用年数をあと何年も残しているにも関わらず使用に耐えない状態にある装置もあります。
長期修繕計画上の耐用年数(リニューアル時期)を目安として部品等が廃番になり交換すべき部品が調達できなくなったり、受注生産となることで著しく割高になったりするようなものもあります。また、経験上、耐用年数が近くなると故障の頻度が高まり、修繕や部品交換も増える印象があります。
したがって、絶対的なものではないとしても、長期修繕計画上の耐用年数を目安に各施策を検討していくことは、一定の合理性はあるようです。