施工事例
2023/02/17
施工事例:リニューアル ~リニューアル提案は突然に~

『この駐車装置は、30年以上使用した実績がありませんので、
 今後の安全性に責任は持てません。したがって、リニューアルを提案します』

今回の管理組合さんが、メンテナンスを委託している駐車装置メーカーさんから受けた提案です。

1.概要

・工事概要 : 駐車装置リニューアル(入れ替え)工事

・施 主  : マンション管理組合

・所在地  : 埼玉県

・築年数  : 32年(着工日現在)

・施工対象 : 単純昇降(地上1段地下1段)式 20台

【施工前】
向かって右は3年前に平面化、左側が今回のリニューアル対象

【施工後】
左側がリニューアル済。
新装置には乗り込み口にゲートが付きます。
車路の嵩上げは左側のみ。右に向かって緩やかな勾配をつけています
(グレーチングも右側に移設)。

【3年前の施工前】
両側とも機械式駐車場


2.経緯

 

この管理組合さんと当工事センターとのお付き合いの始まりは4年前に遡ります。

元々このマンションには、42台分の駐車場がありました。もちろん全て単純昇降(地上1段地下1段)の機械式でした。当時10台以上の空きを抱えられていたことから、22台を解体・撤去・平面化工事を勧め、3年前に平面化工事(鋼製平面)を実施されました。平面化工事期間中に台風が直撃し、対応を迫られた、なんてこともありました。

当時、駐車装置は設置から既に28~29年を経過した時期で、駐車装置の一般的な“耐用年数25年”を超えていました。また、車路のアスファルトの劣化も進んでいました。

『平面化』、『リニューアル』、『アスファルト舗装』、管理組合さんは、駐車場について当時これら3つの課題を抱えられていたことになります。

一般的に、工事は分割すればするほど費用は割高になり、トータルの工事期間も長くなりますから『平面化』、『リニューアル』、『アスファルト舗装』をまとめて実施する方が経済的です。平面化とリニューアルの工事を同時並行し、それらの工事が終わり次第、車路のアスファルト舗装工事を実施する、という流れです。

・平面化工事     ・・・ 15日間

・リニューアル工事  ・・・ 40日間

・アスファルト舗装工事・・・  7日間

単純に別々に施工すれば、トータルの工期は 15日間(平面化)+40日間(リニューアル)+アスファルト舗装(7日間)=62日間の工事となりますが、まとめて実施すれば、40~47日間で完工することができます。

当時、平面化とリニューアル、そしてアスファルト舗装をまとめて実施されることを提案しました。トータルの工期は短い方が、工事に係る居住者さんのストレスも、工事期間の間の代替駐車場等の付帯費用負担も軽く済むためです。

トータルでは様々な意味で合理的だと解かってはいても、管理組合さんとして大きな決断をすることは簡単ではありません。

3~4年前と言えば、設置から28~29年の頃で、『30年以上使用した実績がなく、、、』という話がメーカーさんから出ていてもおかしくない時期です。当然、管理会社さんから当時メーカーさんにリニューアル、部品交換の必要性について確認を入れられましたが「当面は大丈夫」というようなニュアンスの回答がありました。

大きな決断は簡単ではないところに、メーカー(=メンテナンス業者)から『当面は大丈夫』と言われれば、敢えてリニューアルの決断をする理由がありません。

結果として、平面化だけが実施されることとなりました。

それから2年、メンテナンス業者=メーカーさんから突然出たお話がこれでした。

『この駐車装置は、30年以上使用した実績がありませんので、
今後の安全性に責任は持てません。したがって、リニューアルを提案します』

3.提案できる背景(想像)

設置から28年~29年の時点で「当面は大丈夫」と言われていた話が、突然「30年以上使用した実績がありませんので、、、」という話に変わる、、、“普通は”このタイミングでリニューアルの提案はしづらいでしょうし、容易に受け入れられるとも思えません。

この提案ができる背景があると思います。

ここに記す内容は、当工事センターの想像です。

この提案ができる背景には、『他メーカーに奪われることはない』という油断のようなものがあったのではないかと思います。

旧駐車装置はそのメーカー少々特殊な独自の装置()で、単純に他メーカーでのリニューアルができないものでしたから、事の経緯に少々不満があっても、最終的にはそのメーカーの提案を受け入れざるを得ないであろうと考えられます。

独自の装置について

通常のリニューアル工事は、旧装置を解体・撤去し、コンクリートでできた空っぽのプール(ピット)の状態にし、そのプールに新装置を設置するという流れになります。プールまで撤去して作り直すことが理想ではありますが、費用対効果の観点からプールは再利用される場合がほとんどです。また、プールの再利用にあたって、プール自体の形状を変更すること、つまり長さや幅を拡げたり深さを掘り下げたりすることは通常はできませんから、プールの形状(サイズ)ありきで新装置の選定が行われます。駐車装置の形状は、各メーカーや機種によって若干異なりますから、同じ収容サイズ・高さ制限の駐車装置でも、メーカー/機種により装置全体のサイズは異なります。

旧駐車装置は、他メーカーの装置よりも浅いプールに設置できる特長がありました。翻ってリニューアルにあたっては、他メーカーの装置を設置しようとするとプールの深さが足りない、ということになります。繰り返しになりますが、プールを掘り下げることはできません。

単純に考えれば、旧装置の同じメーカーに依頼するしかない、ということになります。

実態として、競争が無いところにコスト削減作用は働きません。このことは、リニューアル工事のみならず、その後のメンテナンスにも言えることです。

そこで、車路の嵩上げ()を提案しました。

プールの掘り下げができないのであれば、周り(車路)を嵩上げすることで、プールを掘り下げるのと同じ効果を得ようという発想です。

車路を嵩上げプールの深さを確保することで、選択肢が旧装置のメーカーに加えて、嵩上げに対応できるメーカーという選択肢が生まれ、最終的には3社での相見積りとなりました。

併せて、車路の嵩上げをするということは、即ち傷んでいたアスファルト舗装を直すことになり、もう一つの懸案であったアスファルト舗装を同時に解決できる、一挙両得の策となりました。

車路の嵩上げについて

車路の嵩上げは、駐車装置の地下車室の高さ制限の緩和(ハイルーフ仕様化)を希望される管理組合さんとの議論の中で時折話題に上ることがあります。しかしながら、車路の嵩上げは、全ての駐車場で採用できるわけではありませんので注意が必要です。

かくして、“突然のリニューアル提案ができる背景”が崩れ、通常のリニューアル検討ができ、旧駐車装置のメーカーとは別のメーカーに発注され、施工が完了しました。

3年前の平面化、今回のリニューアル+車路のアスファルト舗装で、この管理組合さんは、向こう10年~15年は、駐車場に関する大きな問題から解放されることになります。

4.不幸(?)中の幸い

『機械は古くなれば故障しやすくなる』このことは感覚的に何となくご理解頂けると思います。

駐車装置の運営の中でしばしばみられるのは、メンテナンス業者から各部品の経年劣化を指摘され、部品交換/修繕を実施して間もなく、メーカーから様々な理由()を付してリニューアルが提案されるパターンです。

「去年○百万円かけて部品交換/修繕したのに、今度はリニューアルか!?」というパターンです。ここでいくらメーカーに文句を言っても、既に支払った部品交換/修繕費用が返ってくることはなく、リニューアル費用が値引きされることも通常はありません。

 

様々な理由

『この機種は廃番になりましたので、今後部品が調達できなくなります(≒今後故障したら修理できません)』というものが最もスタンダードな理由のようです(今回の事案のように「30年以上使用した実績がないので、、、」というのは珍しい理由だと思います)。
厄介なのは、多くの場合この理由に“嘘が無い”ことです。

いわゆるメーカー系メンテナンス業者はメーカーの一部門であったり、子会社であったりする(管理組合さんには同じ会社だと認識されている)場合がほとんどですから、部品交換/修繕とリニューアル等は当然計画的に提案されていると考えられがちですが、実態には疑問符が付きます。

メンテナンス業者(部門)は、既存の装置を安全に稼働させる観点から部品交換/修繕を提案されるのが一般的です。メーカー(新設/リニューアル部門)は、ある機種が廃番になれば、その後の部品調達に係るリスクを速やかに説明し、リニューアルを提案することになると思います。

善意に捉えれば、各業者(部門)がそれぞれの立場から状況に応じたベストな提案をしているということになります。願わくは「各業者(部門)がそれぞれ」ではなく、「各業者が連携(俯瞰)して」ベストな提案をして欲しい、というところです。

今回の管理組合さん(駐車装置)も同じパターンに陥られる可能性は多分にあったと思いますが、リニューアル間際に部品交換/修繕に資金を投じる、という最悪のパターンを避けられた、ということは、不幸中の幸いであったと思います。

もちろん最悪のパターンにならないように、管理会社の担当者さんが日常的に点検報告書にきちんと目を通され、資金面も横目で見ながら来るべき事態に備えられる“鉄壁のバックアップ体制”を敷かれていたことも記しておかなければなりません。

5.自衛手段

最悪のパターンに陥らない為の自衛手段はいくつかあります。残念ながら日々“駐車場(装置)のことを気にして生活している”という方はほとんどおられないと思いますから、実際に取り得る手段は限られます。

当工事センターがおススメしている手段は、「設置から15年(≒マンション竣工から15年)が経過したら、駐車装置リニューアルの見積りを取ってみる」これだけです。

リニューアルの見積は、既存駐車装置のメーカー“以外のメーカー”から取られる必要があります。

一般的にリニューアルは、莫大な費用が掛かると考えられがちですが、部品交換費用(の合計額)との比較では、リニューアル費用の方が安価な場合が少なくありません。

当工事センターからリニューアルの見積書を提出した時に「こんな金額でリニューアルできるの!?」と驚かれることは少なくありません。驚かれるのは管理組合さんだけではなく、管理会社の担当者さんも同様です。

以前ご相談を受けた管理組合さんでは、管理会社さんから提案されていた部品交換見積り1,400万円に対して、リニューアル見積りは1,100万円だった、ということもありました。当時の理事長さんは「1,400万円もかけて部品交換をするのであれば、リニューアルした方が良いのではないか?」と尋ねられたものの、管理会社さんからの回答は「リニューアルには何千万円もかかります」という回答であったそうです(その担当者さんは本当に何千万円もかかると思っておられたようです)。

リニューアル費用を確認し、リニューアル費用の過大評価を避けることで、経済的に不合理な部品交換/修繕を避けることができます。

6.管理組合さんにとってのベストシナリオ

今回の管理組合さんにとってのベストシナリオは、遅くとも3年前の平面化工事の際に、今回実施したリニューアル+アスファルト舗装工事を同時に実施する事であったと思います。

但し、これは単純に経済合理性の観点からのベストシナリオです。当時、リニューアルまで検討していたら、議論が複雑になり、長期化し、3年前のタイミングで平面化さえ実行できなかった可能性があり、平面化ができなかった装置が故障し、それに係る部品交換/修繕費用がかかっていた可能性は低くなかったと思います。

そう考えれば、『3年前に半分平面化』し、その後『部品交換/修繕費用がかからないタイミング』で、『車路嵩上げとアスファルト舗装を絡めて』、『相見積で安価に』リニューアルができたことは、現実的なベストシナリオであったと思います。

7.余談

今回のリニューアルの検討過程での、MVPはある理事の方でした(不躾ながら当工事センターの勝手な評価です)。その理事の方は大手ゼネコンにお勤めでした。正直なところ「ゼネコン勤務の方」と聞くと、あまり良い印象はありません。プロであるがゆえに気になるところが多く、持論を押し付けたり、抽象的な批判に終始されたりして、議論を混乱させられることが少なくない為です。

しかしながら、今回の理事さんは、質問や要望が常に具体的で、当工事センターやメーカーと意見が一致しなかった場合にも、押すところ、譲るところが明確で非常に有意義な議論ができました。

さらに、総会の場で各管理組合員さんの質問等にも主体的にご対応頂くことができました(メーカー側からの説明だけでは説得力に欠ける場合がありますが、理事の方からのご説明は説得力抜群です)。

8.最後に

メンテナンス業者(部門)から『当面大丈夫』という言葉だけを頼りに駐車場運営をしていると、リニューアル提案は通常は25年目以降突然になされます。

15年目にリニューアルの見積りを取り、それを片手に駐車場を運営されることをお勧め致します。

 

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