施工事例
2022/10/12
施工事例:平面化(鋼製平面)~メンテナンス+サブリースと適切なタイミング~

【施工概要】

工 種  : 平面化(鋼製平面)

施 主  : 個人オーナー

物件種別 : 賃貸マンション附置駐車場

築年数  : 26年

所 在  : 東京都江東区

施工前  : 単純昇降(地上1段地下2段)式 収容台数=6台×1基=6台

施工後  : 平面(鋼製平面) 収容台数=2台

 

【背景】

今回のマンションは、地下鉄の駅からも5分程度、バス停までも徒歩1~2分と公共交通機関の利用に便利な立地にあることもあって、居住者の駐車場需要は限定的で、総収容台数6台の内、居住者さんの契約台数は1台に留まっていました。

~ メンテナンス+サブリース ~

当初駐車装置の状態は良好であったことから、定期点検で駐車装置の状態をウォッチしながら、空き車室をサブリースすることで収入を確保しながら、部品交換/修繕が必要になるタイミング=『来るべき適切なタイミング』を待つこととなりました。

 

◎ポイント1:メンテナンス業者とサブリース業者の連携

このような取り組みの成否は、メンテナンス業者とサブリース業者が連携できるかどうかにかかっています。世の中にはメンテナンス業者は何社もあり、駐車場サブリース業者も何社かあります。インターネットで検索し、それぞれ何社かに見積りを依頼しさえすれば、「メンテンス+サブリース」の取り組み自体は誰でもできます。しかしながら、メンテナンス業者はメンテナンス契約の継続を、サブリース業者はサブリース契約の継続をそれぞれが連携しないまま考えていては、「来るべき適切なタイミング」を捉えることはできません。

メンテナンスは1円でも点検料金が安い業者に、サブリースは1円でも高い賃料を提示する業者に、と目先の事だけで判断していてはできない取り組みです。

 

~ 時は流れて ~

サブリースで安定的な収入を得ながら大過なく駐車場は運営されていましたが、時は流れて4年余り、駐車装置は、経年劣化により一部のスプロケット(歯車)に不具合が見られ、パレット昇降の際に異音がするようになりました。この“異音”は大きな事故の予兆ですから、速やかに交換すべきところですし、交換工事自体もそれほど難しい作業ではありません。

但し、安い部品ではありません。また、スプロケット(歯車)を交換するのであれば、経年劣化が見られるチェーンも一緒に交換したいところです。チェーンを交換するのであれば、この機会に○○と××も、、、。交換工事はできるだけまとめて実施することで費用の総額を抑えることがでますから、この機会に○○と××も、という考えは間違いではありません。

しかしながら、その費用をかけてこの駐車装置を維持していくことの合理性は検討しなければなりません。

 

~ 駐車場経営の目的は ~

今回の駐車場は“賃貸”マンションの附置駐車場であることから、直接的か間接的かは別にして、マンション経営に貢献、つまり収益を生まなければなりません。

これまでは、部品交換は特に必要なく、定期点検で様子を見ておくことで利用者の安全は担保できていました。定期点検の費用は、駐車場の賃料収入(サブリース賃料収入)を上回ることはありませんので、収容台数6台の内5台がサブリースでも駐車場の収益に貢献できていました。とはいえ、サブリースは賃(転)借人の有無に関わらず賃料が保証される反面、オーナーが直接賃貸する場合の賃料に比べれば割安です。

6台の内5台がサブリースでは、部品交換の費用までは賄うことができません(本件では、6台の内4台が直接賃貸、2台がサブリース、これが部品交換/修繕の費用が賄えるラインでした)。

 

~ オーナーさんの決断と管理会社のアシスト ~

オーナーさん、管理会社さんは“安全最優先”、且つ合理的なお考えで、過去5年間の駐車場の契約状況、立地条件、マンション居住者転居の可能性等々を考慮され、機械式駐車場の平面化、サブリースは最短期間での解約、1台の契約車両は暫定的に車路部分に駐車、この決断をされました。

 

◎ポイント2:“安全最優先”という案外難しい決断

“安全最優先”これは当たり前の考えのようではありますが、時として蔑ろにされることがあります。『油を差しておけばまだ使えるはずだ』、『最低限の部品交換で延命できないか』、『点検をきちんと行っていないからだ』、『点検業者を変えれば何とかしてくれるはずだ』などと現実から目を背けたり、責任転嫁を試みたりしている間に安全性は毀損されます。

 

今回オーナーさんのスピーディーな決断を可能にしたのは、管理会社さんのアシストと普段からの信頼関係があったことは言うまでもありません。

 

~ 管理会社さんの2つの目論見 ~

また、管理会社さんには、もう2つの目論見がありました。

機械式駐車場を廃止して平面駐車場にしてしまえば、これまで駐車できなかったワンボックスカーやミニバン、SUⅤ等が駐車できるようになる。そうすれば、既存の賃借人さんには引き続き使って頂くとして、もう1台の賃借人を見つけるのは然程難しいことではないし、今の賃料よりも高い賃料で貸し出すこともできるというのは目論見の一つ目です。

さらには、駐車装置を動かしていた電源を利用して、電気自動車(EV)の充電器も設置されました。これは、コンセント型普通充電器でありますが、安価で、基礎充電の設備としては充分だという判断でした。

もう一つの目論見は、仮に既存の賃借人さんが車を手放されるか、撤去されるかで駐車場の賃貸借契約を解約された場合、コインパーキングにすることでより大きな収入が期待できる、というものでした。

 

~ 後日談 : 管理会社さんの目論見通り ~

後日談ですが、管理会社さんの一つ目の目論見は見事に当たります。

工事完了から間もなく、ワンボックスカーをお持ちの方から駐車場の申込があり、賃貸されることとなりました。その際、二つ目の目論見を実現するために、コインパーキング化の可能性もきちんと説明され、その際の解約がスムーズに進められるような契約にされました。

今のところコインパーキング化の目途は立っていませんが、2台の平面駐車場が満車の状態で安定稼働していると伺っています。

今回の一連のやり取りを見ていると、オーナーさんと管理会社さんとの強固な信頼関係にも納得でした。

 

今回の鋼製平面化工事は、オーソドックスな工事でしたので、ここで工事の流れをご紹介致します。

【工事の流れ】

1.施工前

一般的な単純昇降(地上1段地下2段)式駐車装置です。

2.解体工事

ボルトを緩めたり、ガスバーナーで溶断したりしながら地上部分から順次解体してきます。10年、20年と使い続けてもられた駐車装置です。ボルトが錆びついて簡単には緩まない物も多くあります。また、パレット(車台)は1枚400kgから500kgあります。クレーンで吊り下げながらの作業となります。

装置を昇降させていたモーター、チェーン、普段見えない部分の様々な部品が搬出されていきます。

装置を支えていた柱(鉄骨)も搬出です。柱を固定していたアンカーボルトは、ピットの底面に合せて切断します。

3.ピット洗浄

解体・搬出が終わると、ピット内を高圧洗浄します。長年堆積していた砂埃等がチェーンオイル等で固まっていることも少なくありません。洗浄には限界がありますが、少しでもきれいにしておきたいものです。

※一日の作業が終わると、、、

ピットの深さは約4m、中を覗いてみるともっと深いように感じます。人が落ちたら大ケガ(では済まないかも)に繋がります。そのようなことが無いように、一日の作業が終わるとフェンスで間口を塞いで退場します。

4.墨出し

アンカーボルト等を正しい位置に正確に設置する為、必要な線や印を底面や壁面に表示していきます。

5.アンカーボルト打設

底面や壁面に穴を開け、ケミカル(薬剤)を注入し、アンカーボルトを設置していきます。

6.ブラケット固定

主に梁を固定するブラケットを壁面に設置したアンカーボルトに固定していきます。

7.柱設置

底面に設置したアンカーボルトに柱となる鉄骨を固定していきます。

8.根巻き

ピットの底面は、雨水等の排水の為に勾配が付いています。根巻きにより、一定の長さの柱を丈夫で水平にします。根巻をせずに柱を底面に直に設置する場合もありますが、湿乾を繰り返す底面に柱=鉄骨を直に設置することは、できれば避けたいところです。

9.梁固定

柱とブラケットに梁を固定します。

10.床材敷設

梁の上に床材を敷き詰めます。今回のメーカーさんの床材は、幅20cm、長さ250cmの床材を横引き(車の向きに対して直角)で敷き詰めます。

横引きの方が作業工程は嵩みますが、耐性、メンテナンス性等を考えれば、横引きが理想です。

11.ボルト締め

今回のメーカーさんは、現場溶接が一切なく、全てボルト接合です。

溶接は、折角のメッキを剥がしてしまうことでサビを誘発したり、作業中の熱で床材と変形させてしまったり、何より作業員さんの技術で仕上りに差が出たりするため、全てボルト接合のメーカーがおススメです。

12.塞ぎ

床材の形状・大きさとピットの大きさと形状には必ず誤差があります。それによりできる隙間は、丁寧に塞いでおく必要があります。

※床材が曲がっている?!

引渡しの際に「床材が曲がっているじゃないか!」というようなご指摘を頂く場合があります。ピット(基礎)と床材の間に隙間、特に曲線の隙間ができている場合、その隙間はシリコン等で塞ぐことがあります。これをご覧になって床材が曲がっていると思われることは無理もありません。ところが、このような場合、床材ではなく、基礎が歪んでいる場合がほとんどなのです。多くの方は、コンクリートのピット(基礎)が歪んでいるとは思いもよらないと思いますが、実際には、真四角のピット(基礎)を見ることはあまりありません。

13.ライン引き

区画ラインは、塗料、テープ、鉄板(リベット)等いくつかの種類があります。どれも一長一短ありますが、できるだけ床材に穴を開けたくないので、塗料かテープが良いと思います。

14.完成全景

完成です。真ん中に見える水色のポールが電気自動車(EV)充電用のコンセントです。

15.点検口

一番奥に点検口が付いています。地下の排水ポンプのメンテナンスの場合などには、ここからピット内にお入りいただけます。

施工方法や仕上りは、メーカー/施工業者によって異なりますが、概ね似たような施工プロセスになります。

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