コラム
2020/08/08
コラム:平面化 工法の選択 ~埋め戻しのリスク~

駐車装置の平面化は、 『鋼製平面』 と 『埋め戻し』 に分かれます。

鋼製平面は、駐車装置を撤去した後のピットに鉄骨で柱と梁を組んで床材を敷き詰める(柱がなく
梁と床材だけで施工される業者さんもあるようです)工法です。

重量が駐車装置の半分から3分の1程度になるため、ピットや地盤に対する負荷が軽く、その意味
では安全な工法だと言えると思います。

また、ピットを概ねそのまま維持し、排水ポンプも維持することから、将来駐車場需要が増加し、
駐車装置を再設置する場合には(ピットサイズ等と新装置の構造が合えば)、比較的容易に再設置
ができることもメリットで、メーカーによって「暫定平面」と表現される理由もここにあります。

デメリットは、素材が基本的に鉄であることから、発錆に対するメンテナンス(費用)が必要なと
ころだと思います。但し、最近は溶融亜鉛めっきやZAMが主流ですので、このメンテナンス費用
は、駐車装置のメンテナンス費用とは比較にならないほど安価に済みます。

鋼製平面は、施工費用とメンテナンス費用のことだけを納得頂ければ、議論は然して複雑にはなり
ません。

反対に、簡単そうで難しいのが『埋め戻し』です。

埋め戻しにはいくつかのリスクがあります。

その最たるものが地盤、地耐力に係るリスクです。駐車装置を撤去した後にはコンクリートのピット
が残ります。そのピットも撤去した上で埋め戻す、これが理想です。

しかしながら、駐車装置を撤去した後、ピットを撤去せずにピットを砕石等で“埋め戻し”、アスファ
ルトやコンクリートで舗装する、というのが一般的です。

地盤が強固であれば特段大きなトラブルは起こりませんが、軟弱地盤地域等でピットの下に空洞が
できているような場合には、ピットの強度次第では陥没等の事故のリスクが高まります。

砕石を用いて埋め戻しをした場合、駐車装置の7倍~10倍程度の負荷(重量)がかかります。

ピットは当然駐車装置(及び駐車車両)の重量を前提に設計されていますから、7倍~10倍の
負荷への耐性は誰も保証してはくれません。

ピットへの負荷を軽減するために、再生砕石ではなく軽量盛土材(軽量土)や発泡スチロールブロ
ックが用いられる場合がありますが、今度は費用の問題が出てきます。一般に軽量土や発泡スチロ
ールブロックは、再生砕石に比べてかなり割高です。

コストをあまり気にしなくてもよければ、ピットまで撤去して埋め戻したり、ピットを撤去しなか
ったとしても軽量土や発泡スチロールブロックを用いたりすることで事故のリスクは大幅に抑えら
れますが、平面化の議論の殆どは『駐車装置に係るコスト削減』という主旨でなされますから、
平面化施工費が膨らんでしまえば『駐車装置を維持していく方が経済的だ』という結論になります。

 

では、何でもかんでも鋼製平面にすればよいのかといえば、当センターが関わる案件では、埋め
戻しの方が安価に施工できています(これは、施工業者さんによって変わります)し、これまで
陥没等の事故も皆無である現実もあります。比較的リスクが低い地域の物件まで鋼製平面にする
のも以後の維持費も含めて資金が無駄になります。

ではどうするのか?

今のところは100%大丈夫!といえる条件はない一方で、『こういう駐車場での埋め戻しはやめ
た方がよい』、『お勧めできない』という“危ないポイント”はいくつかありますので、それだけは
避ける、というのが現実的だと思います。当センターが対応した案件で今までに事故が皆無なのは、
このポイントを避けてきた結果でもあります。

 

余談ですが、危ないポイントに合致する駐車場で埋め戻しがなされている現場を見かけると、他人
事ながら心配になります。

そして一番悩ましいのは、『数年前に他の業者さんに依頼して半分の駐車装置を撤去して埋め戻し
たのですが、残った駐車装置を撤去して埋め戻して欲しい』という類の相談を受けた場合です。

当センターでは埋め戻しは避けて鋼製平面で提案すべきだと考える一方で「なぜ埋め戻しではなく
鋼製平面なのか?」という質問を受けた場合には、埋め戻しのリスクに言及しなければなりません。
軽量土や発泡スチロールブロックを用いることを検討しても、前回の施工費用と比較して高くなる
理由として、リスクを説明せざるを得ません。

そこに言及することは、施工済みの工法を否定することになりかねません。見方を変えればリスク
はありながらも現に事故が起こっていないところに混乱を招くようなことを言うことにもなります。

こういう本質とは違うところでつらい思いをされないためにも、当初から工法の検討は慎重にお願
いしたいと思います。

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