コラム
2022/04/26
コラム:機械式駐車場は金食い虫なのか?

“機械式駐車場は金食い虫だ!”

数年前から時々聞かれるフレーズで、当駐車場工事センターのTOPページにもこれをアレンジしたフレーズがあります。

機械式駐車場には、定期点検、部品交換、将来のリニューアル、そしてまたその後の定期点検、、、と確かにお金がかかります。しかしながら、これらは予め計画された支出であって、“金食い虫!”と非難されるのはあまりにも理不尽で、駐車場に携わるものとしては「機械式駐車場があまりにもかわいそうじゃないか!」と庇いたくなってしまいます。

とはいえ、“機械式駐車場は金食い虫”という印象をお持ちの方が少なからずいらっしゃるのも事実だと思います。

今回は、なぜそのような印象を持たれてしまうのか、その理由を考えてみたいと思います。

 

理由は大きく3つだと思います。

①機械式駐車場のメリットの不認識

②駐車場稼働率(契約台数)の低迷

③予算の流用

 

①機械式駐車場のメリットの不認識

管理組合の理事会や総会等で機械式駐車場に関する議論をしていると、

なぜこんなにお金がかかる設備(駐車装置)を設置したんだ!

なぜ平面駐車場にしなかったんだ!! 等

と言い出す方が時々おられます。それらの“なぜ”にお答えすると、

『少なくともマンション建設当時、その方が合理的であったからでしょう』ということになります。少し違う角度から言うならば、『もし、あなたのマンションの駐車場が、機械式ではなく平面駐車場であったならば、多分あなたはその(当時の)値段でマンションは買うことはできなかったかもしれません』となります。※その背景は、別の機会に詳しく書こうと思います。

駐車場が機械式であったからこそ、そのマンションを(その値段で)買うことが出来た、と考えれば、マンションをお買いになった時点で機械式駐車場のメリットは享受されているわけです。先に享受したメリットの認識が無ければ、購入後その対価をいわば“後払い”している状態の現状は、ただ費用(維持費)を搾取されているような印象になり、結果として“機械式駐車場は金食い虫だ!”ということになるのだと思います。

 

②駐車場稼働率(契約台数)の低迷

機械式駐車場に係る費用(定期点検費、部品交換費、修繕費等)は、概ね“総収容台数”に比例します。10台収容の機械式駐車場であれば、契約台数が10台(満車)でも、1台であっても、10台分の費用がかかります。満車の状態であれば、駐車装置の維持に費用がかかっても、必要経費としてそれほど問題にはなりませんが、「1台分の収入で、10台分の費用負担」ということになれば、費用負担が相対的に大きなものに感じられ、“機械式駐車場は金食い虫だ!”という印象を持たれるのも解らなくもありません。

但し、このような場合の真の問題は、居住者が“想定よりも”お車を持たれないこと、或いは当初の計画が楽観的過ぎたこと、これらが原因であって「機械式駐車場に罪はありません」

 

③予算の流用

“流用”と書くと少々物騒な話のようですが、これが案外見逃されている、或いはタブー視されて皆が触れない問題です。

同じ買い物でも、経済的にも時間的にも余裕がある時に買う場合よりも、経済的にも時間的にも余裕がないときに買う場合の方が、値段が高く感じられることはないでしょうか?また、精神的に余裕がないことから、冷静でいられなかったり、必要以上に細かいことが気になったり、、、。

機械式駐車場の維持費やリニューアル費用(予算)は、マンションの他の設備と同様に長期修繕計画に組み入れられています。そして、ほとんどの機械式駐車場(経験上は全てと言っても過言ではない)は、その修繕計画通りに部品交換が実施されることはなく、定期点検で各部品の様子を見ながら、メンテナンス業者さんの提案によって(実際にはその提案の一部の)部品交換が実施されます。したがって、当初の長期修繕計画の3分の2から半分程度の費用しか支出されませんし、タイミング的にも計画よりも早いタイミングで支出を迫られることはめったにありません。

当初の計画よりも実際にはお金を使わないわけですから、本来機械式駐車場は金食い虫どころか“機械式駐車場は貯金箱”であるはずです。

にもかかわらずいざメンテナンス業者さんから部品交換の提案が出てくると、「高過ぎる!」、「いま必要な部品交換なのか?」、「そんなお金(修繕積立金)は無い!」等あたかも当初の計画などなく、機械式駐車場に維持費がかかることを今日初めて聞いた、と言わんばかりの声が上がることが少なくありません。

部品交換の費用は、安いものではありませんから、反射的に「高い!」と言ってしまう気持ちは充分にわかりますが、問題は「そんなお金(修繕積立金)は無い!」というパターンです。

上述の通り、駐車装置の維持費は、長期修繕計画書通りに使われることはなく、前倒しで使われることもまずありませんから、「お金がない」のであれば、問題は、『駐車装置に使う予定であったお金はどこに行ったのか?』ということです。

普通に考えれば『大規模修繕等、駐車装置以外のところに流用された』という解が導き出されると思います。

ところで、長期修繕計画の如何に関わらず、駐車装置の部品交換は、設置(竣工)から15年目前後にまとまってくるのが一般的です。それまでは、部品交換等はあまり行われませんので、計画通りに積み立てられ、支出されていれば十分な資金の余裕をもって、駐車装置の部品交換を検討することが出来るはずです。12、13年目ぐらいから点検報告書をよく読んで、早い段階でメンテナンス業者さんに部品交換の相談(見積依頼)をすることで、時間的にも余裕があり、何よりも冷静に安全性を最優先した判断ができるはずです。

にもかかわらずなぜ、部品交換の費用が無いのか?その時期は、ちょうどマンションの大規模修繕が終わったタイミングですから、言わずもがなです。

つまり、機械式駐車場は金食い虫ではなく、本来貯金箱なのであって、本当の金食い虫は機械式駐車場以外にある、ということで、機械式駐車場は、“本当の金食い虫のスケープゴートにされている”、ということです。

何となくの印象で、“機械式駐車場は金食い虫だ!”というフレーズに便乗している裏に、マンション(管理組合)の本質的な問題が隠れているかもしれません。

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