施工事例
2022/11/28
施工事例:平面化(鋼製平面)~総論賛成各論反対~

【施工概要】

工 種  : 平面化(鋼製平面)

施 主  : マンション管理組合

物件種別 : 分譲マンション附置駐車場

築年数  : 18年

所 在  : 大阪府吹田市

施工前  : 1号機 ;横行昇降(地上1段地下2段)式 収容台数=13台

       2号機 ;横行昇降(地上1段地下2段)式 収容台数=13台

       計26台

施工内容 : 2号機 ;1基13台⇒5台の平面化

施工後  : 1号機 ;横行昇降(地上1段地下2段)式 収容台数=13台

       旧2号機;平面(鋼製平面) 収容台数=5台

       計18台

 

【背景】

今回の駐車場は、収容台数13台の横行昇降(地上1段地下2段)式駐車装置が2基設置されていました。数年前から空きが目立つようになり、3年ほど前からサブリースを導入されることで収入の減少分の一部を補われ、併せて保守(メンテナンス)契約を見直されることで点検費用を削減され、収支両面でできることには積極的に取り組んで来られました。

マンションが築18年、ということは駐車装置も設置から18年ということになります。

屋内に設置された駐車装置であることを差し引いても、あらゆる部品に経年劣化が見られ、

故障が頻発する時期です。

油圧シリンダからのオイル漏れ、センサー類の誤作動、パレットの発錆、様々な不具合が発生し始めました。

【検討】

駐車場は“満車”ですから、不具合対応=部品交換/修繕に係る費用は当然に負担せざるを得ない“必要経費”であります。

但し、これは“居住者の車だけで満車、即ち使用料収入が満額管理組合に入っていれば”の話です。

サブリースを導入されている場合、契約台数の如何に関わらず決まった賃料がサブリース業者である当社から管理組合へ入金される、つまり一定の賃料が保証される一方で、管理組合に入金される金額は、いわば“仕入れ値”ですから、通常の使用料に比べれば割安です。

ここで、検討が必要なのは、

部品交換/修繕を施して、サブリースも継続する場合

サブリースを解約して、機械式駐車場を一部平面化する場合

どちらが管理組合にとって得なのか?ということです。

この結論は簡単に出ます。

それぞれの場合についての収支を試算してみることです。

長期修繕計画書、点検報告書、平面化見積書、管理組合の決算書等を並べて、向こう10年の収支を試算しました。向こう10年の試算にしたのは、マンションの築年数≒駐車装置の経過年数、駐車装置の耐用年数を踏まえてのことです。

 

結果として、

①現状維持 ・・・ 1号機、2号機とも今必要な部品交換/修繕を施し、サブリースを継続する

⇒ 向こう10年で 3,600万円の赤字

②半分平面化・・・ 1号機のみ今必要な部品交換/修繕を施し、その後は修繕計画通り
         2号機は平面化。居住者の契約台数は変わらず、サブリースは解約

⇒向こう10年で 900万円の赤字

 

このような結果が出てしまうと、「③⊡⊡する場合 ・・・ ✕✕万円の黒字」がどうしても欲しくなるのが人情です。しかしながら、「✕✕万円の黒字」を実現する為には、次の2つの条件のいずれか、または両方を選択しなければならず、それは極めて難しい選択になります。

 イ)1号機2号機とも平面化する=現在駐車場を契約されている居住者さん
6~7名に立ち退きをお願いする(マンション外の月極駐車場等を利用して頂く)

立ち退きをお願いするとなれば、抽選をするか、各区画をオークションにかけて安価な使用料を提示された方に立ち退いて頂くかしかないと思います。前者の場合には、単に抽選に外れたというだけで、『今後は自分で外部の月極駐車場を探してください』、という話に納得が得られるかという問題が出てきます。後者の場合には、管理組合の使用料収入が最大化されることから、ある意味では合理的ではありますが、マンション管理組合という組織体の特性との相性という面で懸念があります。
また、附置義務の観点から、余剰収容台数を削減(平面化)することについては寛容な自治体でも、立ち退きを伴う収容台数削減には難色を示されることが予想されます。

 

ロ)平面化後の使用料を値上げする

この場合、1台あたりの使用料金を1万円程度値上げしなければなりません。また、10台の契約があることが前提となりますが、そうなれば「より賃料が安い月極駐車場が近所でいくらでも見つかる」状況になります。駐車場まで少し歩くことになっても、これまで機械式駐車場の操作にかかっていた時間と大して変わらないということになれば、居住者だけで10台の契約を確保し維持するのは容易ではないと思われます。

【総論賛成、各論は、、、】

黒字化できないとはいえ、このままでは3,600万円の赤字になるところが、900万円の赤字に抑えることができる、つまり2,700万円の収支改善ということになります。これを単純に1戸あたりに割り戻せば、約65万円の収支改善ということになります。

向こう10年で1戸あたり65万円のコストが削減できる施策に反対される方はあまりおられません。

もちろん、今後駐車場需要が急増した場合の機会損失を心配される方もあれば、「1戸あたり65万円なんて旨い話には裏があるはずだ」、ただただ目先の『支出には反対』というようなご意見をお持ちで反対される方も中にはおられますが、経験上は少数派です。

いわば総論としては賛成される方が大勢を占めますから、話は一気に盛り上がります。

ところが各論に入ると、スムーズに話が進まなくなります。
各論、つまり平面化を実現するための課題です。

 

今回は、以下3つの各論≒課題がありました。

①新平面区画の使用料金設定

②新平面区画の契約者の選定

③2号機平面化に伴う車室移動

 

①新平面区画の使用料金設定

今回のマンションは、全てが機械式駐車場で平面駐車場が無かったことから、新平面区画の使用料金をいくらにするのか、という課題が持ち上がります。

平面化の目的は、機械式駐車場に係るコスト削減による駐車場収支改善ですから、使用料金は据え置き、つまり機械式駐車場(1階車室)の使用料と新平面区画の使用料を同額としても、管理組合にはデメリットはありませんし、各管理組合員が平等に平面化のメリットを享受できます。

しかしながら、一般的には平面駐車場、特に屋内の平面駐車場の使用料金は、機械式駐車場のそれより高く設定されます。また、平面化することにより収容サイズ/重量制限は緩和され、駐車場としての“商品価値”も高まると考えられるのが一般的ですから、新平面区画の使用料金の設定が議論になります。

これまで当駐車場工事センターがアレンジしてきた事例を振り返ってみると、使用料が上がることを前提に平面区画の利用希望者を募った結果、希望者多数で抽選になる場合が多数でした。

しかしながら今回は「使用料が上がるのであれば機械式のままで良い」という方が多く議論は複雑になりました。

今回は、4名(台)の方々が新平面区画への移動に同意して頂かなければ、平面化自体が実現できない事案でした。

 

“駐車場業”的に考えるのであれば、近隣の月極駐車場の賃料相場を参考に使用料を設定することが最も合理的です。近隣の平面の月極駐車場(いわゆる青空駐車場)の相場が20,000円程度であれば、これを目安にして20,000円でも良いでしょうし、本件駐車場は屋内の駐車場であること、居住者にとっては最も近い駐車場であることを勘案すれば22,000円~25,000円程度でも良いかもしれません。

しかしながら、本件はマンション内の居住者用駐車場ですから単純に“業”として考えるのはいかがなものか、という考え方もあります。現在の機械式駐車場の使用料が仮に15,000円であったとすると、周辺の平面駐車場の賃料相場が20,000円だからというだけの理由で新平面区画の使用料を20,000円とした場合、単純に月額5,000円、年間で60,000円の負担増となります。今回の平面化によるコスト削減効果が1戸あたり650,000円であるとすると、新平面に移動を“強いられる”方の平面化による使用料アップでコスト削減効果は約10年で消滅することになります。

いわば、一部の管理組合員の方の犠牲の上に成り立つコスト削減策ということになります。

②新平面区画の契約者の選定

 ①新平面区画の使用料金設定と不可分の課題です。新平面区画の契約希望者が多い場合は、ほとんど“抽選”で結論が出ますから比較的簡単ですが、新平面の契約希望者が少なかった今回は、難しい議論となりました。

③2号機平面化に伴う車室移動

平面化される2号機をご利用中の方には、新平面区画を利用される方を除いて1号機へ車室を移動して頂かなければなりません。これについては、2号機で利用されていた車室と同じ階層の車室の空きが1号機にあったため、スムーズに結論が出ました。

①新平面区画の使用料金設定とそれに関連する②新平面区画の契約者の選定の議論は紛糾し、平面化=2,700万円のコスト削減が頓挫の機器に陥りました。

【ワーストケースを回避する決断】

『新平面の使用料の問題もありますし、平面化の議論は来期以降の理事会に委ねましょう』

多くの管理組合さんで起こる“先送り”です。

自分が理事(長)の時に大きな決断は避けたいというのが人情ですが、先送りを繰り返すと課題はより重いものとなります。

今回の理事の皆さんは、合理的、且つ使命感に溢れた方々でした。

結論としては、

『新平面区画の使用料金は一旦据え置き、平面化工事を先行する』

という決断をされました。

お考えになったのは、ワーストケースは何なのか?でした。

平面化の検討を始められた直接的きっかけは、『駐車装置の経年劣化による維持費(部品交換費)』でした。したがって、管理組合にとってのワーストケースは「平面化を検討している駐車装置に維持費(部品交換費)を投じること」であることが確認されました。

『駐車装置の安全稼働』という大前提がありますから、平面化を先送りするのであれば、駐車装置に施さなければならない部品交換があります。既に、シリンダーからのオイル漏れも見られていましたし、センサー類の異常による装置停止が頻発している状況でした。実際に、平面化しないことが確定している1号機には、先行してセンサー等の交換を実施されました。

平面化を先送りするのであれば、部品交換をする決断をしなければならなりません。

『平面化を検討している期間は、駐車装置は故障しない』というよくある錯覚に陥られている場合には、この決断を迫られた時に混乱されます。

今回の管理組合さんがそうであったように平面化の議論は、駐車場の契約台数が振るわない中、メンテナンス会社さんから高額な部品交換の見積書が出されたことがきっかけで始まる場合がほとんどです。

当初は『故障しそうな駐車装置に費用をかけるよりは、平面化してしてはどうか?』という議論であるはずが、平面化の検討をしている間は故障しないかのような錯覚に陥られることは少なくありません。

「ゆっくり時間をかけて議論をされるのは構いませんが、元々故障しそうな状態になったことから始められた議論です。実際に故障が発生したらどうするかは考えておかれた方が良いのではありませんか?」という問いかけをする機会がよくあります。

返ってくる答えは以下3つのいずれかです。

①故障していない車室(区画)に移動してもらう

②最低限の修理だけする

③故障が発生した時に考える

①故障していない車室(区画)に移動してもらう

「故障していない車室(区画)に移動してもらう」としても、移動すべき車両が駐車されている装置自体が動かなくなる故障かもしれませんし、対象車両は1台だけとは限りません。しかも、移動前後の車室(区画)の収容サイズ制限(主に高さ制限)が同じだとは限りません。これらに関する対応/判断をいつ、どなたがするのかという問題があります。この選択をされるのであれば、故障の発生を待たず、予め車室移動をしておかれることをお勧めします。

②最低限の修理だけする

「最低限の修理だけする」としても、修理≒部品交換です。駐車装置を構成している部品は、千円程度のものから数十万円のものまであります。工賃が入れば100万円近くになることもあります。その判断をどなたがするのかという問題があります。

また、交換すべき部品がすぐに調達できるとも限りません。特にコロナ禍で、従前2週間もあれば充分調達できていた部品が半年経っても入ってこない、ということも珍しくありません。

議論の間に管理会社の担当者さんが入っている場合に、②で安心されることが多いのですが、「交換すべき部品が、1個30万円のモーターで、工賃含めて40万円、モーターの調達に1ヶ月かかる、となったらどうします?」とお尋ねするとほとんどの場合閉口されます。

③の場合は、故障が発生した時になって①②を含めた議論をゼロから始めることになります。

【言うは易し、行うは難し】

今回の理事会のみなさんは、『ワーストケースを避ける為に平面化を先行しても、管理組合内に現在よりも不利になる方はいない=デメリットは無い』と判断されました。平面化によりワーストケースを回避してしまえば、各論は納得がいくまでじっくり議論/検討できるという判断をされ、総会でも多くの管理組合員さんの賛同を得られました。

 

今回は“総論賛成各論反対”の状況下、敢えて各論を棚上げすることで、ワーストケースを回避しながら平面化=コスト削減を実現された管理組合さんでした。

 

【今回の工事の流れ】

①施工前

②解体作業

③解体完了

④柱設置

⑤梁設置

⑥床材敷設

⑦ライン引き

⑧完工

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