コラム
2020/09/29
あと20m、、、

『もし、このマンションがあと〇〇m◇側に建っていたら、、、』

こんな“タラレバ”の話は何の意味もない、ということは重々解かっています。解かってはいますが、どうしても話したくなることが時々あります。

今回ご相談を頂いたマンションもまさにそう言いたくなるマンションでした。

『もし、このマンションがあと20m東側に建っていたら、今後の25年間に管理組合さんが負担する駐車場関連コストは、4,000万円くらい削減できた』と思います。

・総収容台数19台に対して、稼働(契約)台数は7台、稼働率40%未満

・駐車装置は設置から20年を超えて故障の発生頻度が上がってきた

・高さ制限が1,550mm、欲しかった車種を高さ制限のために泣く泣く諦められた方もいらっしゃる

今日日珍しくない駐車場です。

このご相談を頂いた時の最初の印象は『平面化がベスト、平面化しかない』でした。

平面化することで、維持費は大幅に削減でき、高さ制限は解消、駐車装置の操作が無くなり便利にもなります。

マンションの屋内駐車場で、埋め戻しはお勧めできないものの、鋼製平面の施工費用と、工事期間中の代替駐車場費用(都心の為代替駐車場費用を高く見積り)等の諸経費を含めても1,000万円はかかりません。

早速ご相談頂いた方に『平面化しましょう!』という連絡をしようとしましたが、落とし穴がありました。

『平面化しかない、平面化がベスト』などと安易に結論を出し、普段のルーティーンを蔑ろにし、お客さんを落とし穴に突き落とすところでした。

我に返って普段のルーティーンに遵うと、平面化ができないことが判りました。

このマンション、用途地域が『商業地域』だったのです。

この一言で、“なるほどね”と思って頂ける方は、多分“この問題”を理解されている方だと思います。

 

何の問題か?

 

『駐車場附置義務』の問題です。

駐車場の稼働率が低迷し、駐車装置の一部を撤去・平面化/埋め戻し、収容台数を減らすことでコスト削減を図ろうとする場合に、いわゆる附置義務がネックになって、減らすことができない場合があります。

駐車場附置義務に関する条例は、各都道府県、そして市区町村により異なりますから、都度確認が必要ですが、東京都の場合は、用途地域が商業地域や近隣商業地域の場合はハードルが上がる傾向にあります。

今回ご相談頂いたマンションは、あと20m東に建っていれば用途地域は住居系に変わり、事実上附置義務が無くなり、平面化によるコスト削減ができました()。

 

では、このマンションの駐車場はどうするのか、

今回ご相談を頂いた管理組合さんは、

① 約2,000万円をかけて駐車装置をリニューアルし、その後25年から30年に亘って累計3,000万円を超えるメンテナンス費用を負担する

② 故障とそれに伴う修繕費用を負担するリスクを抱えながら今の駐車装置を延命することでとりあえず問題を先送りする

この2つの選択肢からの選択を迫られることになりそうです。

ちなみに、概して負担する費用が高額になる(損をする)のは②です。

 

以前にも同じようなお話がありました。

そのマンションは、駅近の好立地ということが影響してか、駐車場(横行昇降式駐車装置)の収容台数10台に対して稼働(契約)台数は2台のみでありました。駐車装置のサイズ制限を超えるサイズの車をご所有の方がいらっしゃいましたが、その方の分を合わせても車は3台です。

駐車装置10台分を撤去して平面化すると、平面駐車場が4台できる構造でしたので、平面化して、当時契約されていた2台と外部の駐車場を利用されていた方に戻って頂いて合計3台、残る1台分は当面来客用駐車場、これが最も経済的な施策でした。

が、このマンションも商業地域に建つマンションで、附置義務は9台でした。

行政にも相談に行きましたが、『1台でしたら減らして頂いて結構です』という回答でした。

このマンションには“偉い先生”(という表現に留めます)がお住まいで、『私が行ってあげるからついてきなさい』ということになり、御伴させて頂きましたが、結論が覆ることはなく、区役所の窓口で『9台残して頂ければ、、、』『9台までなら減らして頂いて結構です』『1台なら、、、』を繰り替えされて終了です。窓口の方も、条例で決まっていることを“偉い先生”に言われたからと言って覆してしまうわけにもいかない苦しいお立場でありました。

結果的にこのマンション管理組合さんは、平面化を断念され、駐車装置のリニューアルを前倒しで実施されました。目前に高額な部品交換が迫っていたことを考えれば、リニューアルの前倒しも合理的な判断ではありましたが、平面化が最も経済的だと思いながら、また、8台というよりも8割が空き車室になることが判っていながらリニューアルをお勧めするのもつらいものがありました。

近年、附置義務条例を改正(緩和)されている自治体も増えてきていますし、附置義務条例を謂わば「当初設置義務」と「維持義務」の概念に分け、『附置義務=当初設置義務』と狭義に解釈して、維持については言及しない(管理組合に判断を委ねます)という回答をされる自治体も増えてきました。

しかしながら、あと〇mで涙を飲む管理組合さんが少なからず残っているのもまた事実です。

 

住居系の用途地域に建つマンションに附置義務がないとは限りませんので、個別の確認が必要です。

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